IoT化したい取り組みの背景
コメは日本人を含め、世界のおよそ半数の人々が食べる世界の主食となっています。
しかし現状の水稲栽培モデルでは水田内の水温と溶存酸素濃度を管理していないため、土中の嫌気性の菌が増殖し、温室効果が二酸化炭素の約25倍とされるメタンガスが発生している問題があります。
また農作業は、炎天下の長時間労働や機械作業に関する事故など、農業従事者に強いられる負担は時間的・労力的にも多大なものであります。
この「キツイ・汚い・危険」の3Kのイメージにより、新規就農のハードルが高くなっています。
新規就農者の減少は農業従事者の少子高齢化や後継者不足に拍車をかける日本農業界が抱える大きな問題となっています。
そこで本取り組みである「スマート水田」では温室効果ガス発生の抑制を行うとともに、3Kのイメージを払拭し新規就農の促進や農業従事者の負担軽減を目指しています。
IoTを加味した取り組み内容
節水機能
従来の方法では給水を手動で行っていたため、最適な水管理が出来ず必要以上に水をかけ流すなどの問題がありました。
スマート水田では気温・水温・水位・溶存酸素濃度データを観測し、条件に応じて自動で給水・断水を切り替えます。これにより水源水量が少ない農地でも適切で安定した給水を行えるようになることを目指しております。
温室効果ガスの排出抑制
人間活動によって発生する温室効果ガスの70%以上が二酸化炭素ですが、約14%はメタンです。
そしてメタンのうちの約1割が水田から発生していると考えられており、メタンの温室効果は二酸化炭素の約25倍と考えられています。
従来の方法では、水田内の水温と溶存酸素濃度を管理していないために土壌の中にて酸素が少ない状態の中が続き、嫌気性の菌が繁殖することでメタンを生成し、温室効果をもたらす原因となっていました。
本取り組みでは溶存酸素センサを用いて酸素濃度を測定し、酸素濃度が規定値以下であれば水田内の水を抜くことで土壌に酸素を触れさせ、結果としてメタン生成菌の繁殖を抑え、地球温暖化の抑制に貢献します。
急激な温度変化の抑制
現在、農業従事者の減少に比例し耕作放棄地が増加しています。
水田における耕作放棄地の増加は生産量の低下だけでなく、生育環境を変化させる大きな問題となっております。
水は空気に比べ、熱しにくく冷めにくいという特性があることから、水田地と耕作放棄地(陸地)の間で寒暖差が生じ、従来では発生しなかった急激な温度変化や突風が新たに生じています。
ー昼間の風の向き(画像1枚目) 夜間の風の向き(画像2枚目)ー
耕作放棄地では熱を吸収する水が少ないため温度変化が著しくなります。
上記のような気温変化を抑制するため、気温・水温センサで環境を観測し、自動給水することで、昼は水を温め、夜は水田から放熱させます。
これにより狭い範囲で気流を発生させることで強風を抑制し、さらには寒暖差緩和を目指しています。
ー実際の給水設備(画像1枚目)と管理画面(画像2枚目)ー
スマホやPCで動作可能なブラウザを使用したWebアプリとして開発することで、遠隔地からの監視や切り替え操作を実現しています。
給水の自動切り替えや遠隔操作は、農業従事者の生産効率を大幅に向上させます。
従来であれば水田への給水や水流の切り替えを手動で行っていたものを、システムで自動化することで作業時間を短縮し抜け漏れをなくすことが可能となります。
他にも従来であれば生育に重要な水位・気温・水温を人の目で確認して水量を調整していたものも水位・気温・水温センサにて常時監視、即時給水/断水で常時適切な水管理が可能となります。
たとえば“移動含め8時間かかっていたこと”を情報端末にて“10分程度”で完了できるようになれば一人当たりに管理できる農地を広げることができ、遠隔の耕作放棄地にも栽培の幅を広げられるようになります。
また遠隔操作は作業効率の改善だけではなく安全性の向上にも繋がります。
台風などの自然災害が起きた場合にも自宅からの確認や対策が可能となり、農業従事者自身がケガや事故に巻き込まれるリスクの低下が期待できます。
スマート水田の展望
この方法は、費用や労力があまりかからず、地球温暖化の抑制ができ、水を節約できるという環境に対しての大きな利点もあるため、日本全国への展開さらには開発途上国を支援したいと考えております。
また、現在はモバイルデータ通信を用いているため通信料金がかかっていますが、今後はLPWA技術を用いて通信料金のかからないシステムの開発を進めます。この技術により最大半径10kmの範囲での無料通信が可能になることを目指しています。
さらに、情報処理部をICチップのみで構築することを検討中であり、これによりさらに堅牢なシステムを実現し、省エネ化・かつ低価格化を図ります。また、電力供給面では、太陽光発電やバッテリーに加えて、新たに水力発電も導入することで、電力の永続的な供給を実現し、設置スペースの削減も図ります。
このような技術的な進展と組み合わせて、本取り組みはDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める大きな一歩であり、日本においてはデジタル田園都市国家構想にも応用できるものであるため、オープンソースとして装置構成・プログラムをすべて公開し、簡単に構築できるよう展開していきます。